19世紀末―かのヴィクター・フランケンシュタインによるクリーチャー創造から約100年、その技術は全欧に拡散し、いまや「屍者」たちは労働用から軍事用まで幅広く活用されていた。英国諜報員ジョン・ワトソンは密命を受け軍医としてボンベイに渡り、アフガニスタン奥地へ向かう。目指すは、「屍者の王国」―日本SF大賞作家×芥川賞作家が挑む渾身の書き下ろしエンタテインメント長編。早逝の天才・伊藤計劃の未完の絶筆が、盟友・円城塔に引き継がれ遂に完成。
屍者の帝国
「屍者の帝国」 の評価/クチコミ
ゆうきさんの評価:









この屍者の帝国という作品は、SF作品を好きな人ならば必ず知っている伊藤計劃という若き作家によって書かれている。いや正確に言えば彼は早くに夭折してしまったのでそれを引き継いだ円城塔との合作であり、この人もまた日本SFのフロンティアを行く人物であり、そのハーモニーから作られた今作はとてもSFマインドに優れている作品だと言えよう。この作品の舞台は19世紀の世界ではあるが、SF的な偽史として良く使われるガジェットとしてのスチームパンクな世界観をベースに作られていて、その手の物語が好きな人には堪らないものだと言える。そして題目にもある「屍者」とはフランケンシュタインのことであり、その秘密に迫る諜報機関のエージェントのワトソンが世界を駆け巡る一種のスパイ物語の楽しみもある。しかしこの物語の本質は人造生命体をめぐる意識や魂といったSFの物語であり、それを描く文章は難解ではあるが奥深い物がある。確かにこのような点での内容のSF文章は小難しく、様々に引用されるパスティーシュに幻惑され読者を選ぶかもしれないが、それでもこのような新進気鋭なSFフロンティアな作品はあってもいいと思った。
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