康介
収録された6つの短編が、慎重に選ばれた言葉で紡がれ、緻密に計算された伏線の妙で重なり合い、著者のユーモアで繋がれている。数ある伊坂幸太郎の作品の中でも、一、二を争う質の高さを誇るのではないだろうか。本当に完成度の高い作品だと思う。
それもそのはずだ。調べてみると、この作品はシンガーソングライター・斎藤和義ファンであった伊坂が彼のために書き下ろした「アイネクライネ」から始まっている。その短編を原案に斎藤が曲を作り、その続編として「ライトヘビー」が書かれ、一冊にまとまったのだという。つまり、音楽とのコラボ作品だったということだ。しかし、そんな立ち上がり秘話も、実際の物語の面白さに比べれば、前菜に過ぎないことが分かる。
それぞれの短編の中で、小さなエピソードが積み重なる人との邂逅の不思議さを、伊坂は彼独特の柔らかな筆致と確かな構成力で紡ぎ出している。
個人的には、私と同じ境遇にある男の気持ちを繊細に描いた短編「ドクメンタ」が、お気に入りだ。
2015年5月27日